徳洲新聞2026年(令和8年)10月26日 月曜日 NO.1566より 詳細は「徳洲新聞ニュースダイジェスト」をご覧ください。
千葉西総合病院は、重症の三尖弁閉鎖不全症(三尖弁逆流症=TR)に対する経皮的三尖弁接合不全修復術(T-TEER治療)を開始した。低侵襲なカテーテル治療であり身体への負担が少ないため、高齢であることや併存疾患を有するなどの理由により、外科手術(開胸手術)のリスクが高く、薬物療法以外に治療手段がなかった患者さんにとって新たな選択肢となる。治療には2026年3月に保険適用となったTriClip という新しいデバイス(医療器具)を用い、9月30日に1例目を施行し奏功。TriClipの導入施設は全国に32病院と限られ、千葉県では初導入だ。徳洲会グループでは湘南鎌倉総合病院(神奈川県)、札幌東徳洲会病院に続き3施設目。
全国で32施設・徳洲会では3施設目
千葉西病院は9月1日付で日本循環器学会から「経皮的三尖弁接合不全修復システム実施施設」の認定を受けた。これによりTriClipによるT-TEER治療の実施が可能となった。同認定を受けるには、循環器内科や心臓血管外科に関して高度な診療体制・実績を要する。
右心房と右心室の間にある三尖弁が正常に閉じなくなり、血液が逆流してしまうのがTR。TriClipは太ももの付け根の血管からカテーテルを挿入し、経食道心エコー下に、三尖弁の弁尖同士を特殊なクリップではさんで固定する治療法だ(図)。
千葉西病院の桃原哲也・副院長兼循環器内科主任診療部長兼SHD(構造的心疾患)センター長は「TRは進行すると右心不全を引き起こし、“むくみ”や“だるさ”、“息切れ”といった症状がでます。ただし発症から時間が経つと身体が症状に慣れてしまい、無意識に活動量を制限して『症状がない』と認識している患者さんが少なくないのが実状です」と指摘。
そのため見逃されやすい疾患であり、「診察時には患者さんの話をよく聞くと同時に、患者さんは自分の症状を軽めに申告することがあるため、丁寧な問診が重要です。少しでもTRが疑われる場合は、経胸壁心エコーで逆流の有無を確認するなど適切な診断が欠かせません」と強調する。桃原副院長はTAVI(経皮的大動脈弁留置術)約2,500例、M-TEER(経皮的僧帽弁接合不全修復術)約300例など経験豊富な心臓カテーテル治療のエキスパート。
三尖弁は食道から物理的に距離があり、鮮明な経食道心エコーの画像が得にくいことから、TriClip治療は難易度の高い手技だ。同院では、左側の肺を一時的に虚脱(空気を抜く)し、心臓を中央に寄せることで、良好なエコー画像を確認しながらクリップで弁をつかみ、安全に実施できるよう工夫している。
心臓には三尖弁、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁の4種類の弁がある。このうち肺動脈弁の疾患は先天性疾患が多く、小児循環器診療が扱う特殊な領域であり、成人を対象とした循環器診療では、これを除く3種類の弁が治療対象だ。
同院は従来から取り組む大動脈弁狭窄症に対するTAVI、僧帽弁閉鎖不全症に対するM-TEERと合わせ、心臓弁膜症に対するカテーテル治療を網羅したことになる。
また同院はPCI(経皮的冠動脈形成術)やアブレーション(心筋焼灼術)、冠動脈疾患、大動脈疾患に対するMICS(最小侵襲心臓手術)やロボット支援手術といった低侵襲手術などもそろえ、循環器内科と心臓血管外科による“ハートチーム”としての連携の下、心臓に関してフルラインアップの診療体制を構築した。

「QOLや予後の改善に貢献していきたい」と桃原副院長

専用のデリバリーシステムを操作してTriClip治療を行う桃原副院長(左から2人目)

TriClipは右心房と右心室の間にある三尖弁をクリップで固定し、逆流を防ぐ(出典:アボットメディカルジャパン)

「三尖弁は最後のフロンティア」
TRの大半は心房細動や肺高血圧症のほか、僧帽弁膜症など左心系疾患が原因で発症する機能的(二次的)TR。たとえば心房細動を発症し長期間経過すると、徐々に右心房が拡大して弁のサイズが合わなくなり、隙間ができて逆流が生じる。
軽症では経過観察を行い、右心不全の症状が見られる時には、むくみの改善のため利尿剤による薬物療法を行う。薬剤で改善しない重症例に対し、従来は開胸手術(三尖弁形成術・同置換術)を行ってきた。
このようにTRは他の心疾患に後発して発症するケースが多く、発見した時点で進行し、うっ血性の肝不全や腎不全といった臓器不全のほか、低心拍出量により全身状態が悪化していることが多い。外科手術を行うにはリスクが高く、選択肢は薬物療法に限られていた。こうした背景からTRは予後が悪い疾患とされる。
桃原副院長は「日本のSHD治療は、私自身も携わったTAVIの治験が2010年に始まって以降、M-TEER の登場などで劇的な進化を遂げてきました。そうしたなか三尖弁は弁膜症治療のなかで、アンメットメディカルニーズ(有効な治療法が存在しない領域)が残る最後のフロンティアでした。TriClipは手術が難しいご高齢の患者さんが大きな恩恵を受けることのできる治療法です」と力を込める。
適応があり治療が奏功すれば、利尿剤の大幅な減量や息切れなど症状の改善が期待できる。「有効な選択肢がなく治療をあきらめていた患者さんに、TriClipによる治療を届け、QOL(生活の質)や予後の改善に貢献していきたい」(桃原副院長)。同院はホームページや医療講演に加え、地域の医療機関を訪問してTriClip治療開始の周知に努めている。
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