徳洲会オンコロジープロジェクト
大腸がん臨床試験の成果
世界最大がん関連学会で発表
徳洲会オンコロジー(腫瘍学)プロジェクトは1月17日、大腸がんの新たな治療法に関する臨床試験の成果を、米サンフランシスコで開催された世界最大の臨床系がん関連学会であるASCO-GI(アスコ ジーアイ)2015で発表した。
同プロジェクトは大腸がんのほか、乳がん、肺がんの計3領域で臨床研究・試験に取り組んでいるが、研究期間を終えて学会発表に至ったのは今回が初めて。
二次治療として予想以上の成績
発表した臨床試験のテーマは、2011年1月に開始した「進行・再発大腸がんに対する二次治療としてのIrinotecan + TS -1+Panitumumab(IRIS/Pmab)併用臨床第Ⅱ相試験」。
IrinotecanとTS-1 は抗がん剤、Panitumumabは分子標的薬で、同試験はこれら3剤の併用療法に関するものだ。
徳洲会グループ内外の多施設共同試験として実施し、症例集積などの点で徳洲会が大きく貢献したことから、湘南鎌倉総合病院の下山ライ外科部長兼オンコロジーセンター長が発表の重責を担った。
ASCO-GIは1月15日から3日間開催。
下山部長は17日にポスターセッションで発表、徳洲会オンコロジープロジェクトの新津洋司郎顧問も会場に駆け付けた。
同試験の目的は、初回化学療法を行っても効果が得られない状態となった切除不能の進行・再発大腸がんに対するIRIS/Pmab 併用療法の安全性と有効性を検討すること。
国内では大腸がんの罹患率は年々増加傾向にあり、部位別の罹患数は胃がんに次いで2番目に多く、死亡数は3番目に多い。
切除可能症例の場合、治療成績は比較的良好だが、切除不能または再発症例の治癒率は低いのが現状。
こうしたことから新たな化学療法の開発が、治療成績の向上を図るうえで重要となっている。
今回の臨床試験はこうした背景により企図された。
参加施設は、徳洲会グループから湘南鎌倉病院、札幌東徳洲会病院、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院、湘南厚木病院の5病院。
グループ外から徳島大学病院、高知県・高知市病院企業団立高知医療センター、香川大学医学部附属病院、神戸市立医療センター中央市民病院が参加した。
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部消化器内科学の高山哲治教授が試験全体の責任医師を務め、下山部長が徳洲会側の責任者を務めた。
評価対象として有効な症例は36例(目標症例数35例)。
13年3月に全症例の治療を終え、14年11月末に追跡期間も終わり、全試験期間を終了した。
検討の結果、CRとPRを合わせた奏効率は33.3%(CR1例、PR11例)だった。
病勢制御率(DCR)は86.1%。DCRはCR、PR、SDを合わせた割合を指す。
SDとはPRに相当する腫瘍縮小やPDに該当する腫瘍増大を認めない場合をいう。
SDは19例だった。全生存期間中央値は20.1カ月、無増悪生存期間中央値は9.5カ月。
この結果に下山部長は
「二次治療としては予想以上の成績です。切除不能の進行・再発大腸がんに対する二次治療の標準療法になり得ると期待できます」
と手応えを示す。
従来、二次治療では、化学療法により腫瘍を小さくし、手術可能な状態にすること自体、難しかったが、今回の臨床試験は腫瘍縮小効果が得られた患者さんのうち、5例は手術に移行できた。
5例中4例の手術を徳洲会グループ病院で実施した。
一方、がんの化学療法は、副作用の発現が避けて通れず、今回の試験でも食欲不振や下痢、皮疹、好中球減少などが一定の割合で発生。
副作用を理由に治療を中断した症例が一部あった。
「開始当初は同療法にともなう副作用のコントロールに不慣れな面がありましたが、その後、とくに分子標的薬による副作用への対処法が確立されてきたこともあり、早い段階から対処することで副作用はコントロール可能だと考えています」
と下山部長。
想定される副作用に比して得られる治療効果が大きい場合、その治療を実施することは科学的に妥当といえる。
そのバランスや安全性を見極めるのが今回の試験の狙いだ。
「がんの臨床試験に関して徳洲会は経験が浅いため、徳島大学を中心に多施設共同で取り組みました。徳洲会が、がんの臨床研究・臨床試験を十分に実施できることを示せたと思います」
と下山部長は成果をアピール。
今回の結果を受け、徳洲会は同療法を早期に標準レジメンに加え、臨床現場で活用していきたい考えだ。
なお同試験に付随し、手術検体を用いた遺伝子解析の追加研究を徳島大学が進めており、結果がまとまった段階で発表する見込み。
一連の研究を論文にする取り組みも同大学が行う見通しだ。
徳洲会オンコロジープロジェクトを統括する一般社団法人徳洲会の篠崎伸明・専務理事は
「徳洲会は救急医療を原点に始まった医療グループですが、がん医療に関してもオンコロジープロジェクトに取り組みながら質の向上に力を入れています。今回、ひとつの成果を示すことができ、嬉しく思います。今後もグループ外の医療機関と連携を取りながら、がん患者さんのために貢献していきたい」
と展望を語っている。
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