札幌東病院医学研究所 膵臓がん研究で新成果 IPMNの形態と予後にかかわる遺伝子異常を解明

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徳洲新聞2021年(令和3年)5/31月曜日 NO.1289より
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札幌東病院医学研究所 膵臓がん研究で新成果 IPMNの形態と予後にかかわる遺伝子異常を解明

早期発見・治療戦略開発に期待

 

研究グループに参加しているのは札幌東病院医学研究所のほか、東北大学、旭川医科大学、東京女子医科大学、山形大学で、論文の責任著者は膵臓病理の第一人者である東北大学大学院の古川徹教授、筆頭著者は同大の大森優子助教(札幌東病院病理診断科非常勤医)。札幌東病院医学研究所はこれら大学や研究機関などと協力関係を築きながら研究活動を推進し、これまで膵臓がんに関連した研究に継続的に取り組み成果を上げてきた。

今回発表した研究ではIPMN手術切除標本の病理学的解析と、次世代シーケンサーによる遺伝子解析によってSTK11異常を有するIPMNの遺伝学的、臨床病理学的特徴を明らかにした。

膵臓がんは自覚症状が少なく早期発見が難しい難治がんのひとつだ。5年生存率は10%程度と非常に低い。危険因子として膵臓がんや膵炎の家族歴、糖尿病や慢性膵炎の既往、喫煙などがあるが、それら以上に相対的にリスクが高いのが、膵臓がんの前駆病変(がんの前段階の病変)である膵嚢胞(すいのうほう)だ。

膵嚢胞で最も頻度が高いのがIPMN。これは膵管(膵臓の管)の中に発生した腫瘍細胞で、粘液を産生し腹痛や消化不良を引き起こす。また進行すると、粘液による急性膵炎や黄疸(おうだん)を来したり、膵液をつくる細胞やインスリンを分泌する膵島など膵臓の実質や周囲の臓器への浸潤、腫瘍細胞の遠隔転移による治療経過の悪化などを招いたりする。IPMNが、がん化することがあるほか、IPMNが発症した位置と異なる場所に膵臓がんが発生(併存)することもある。

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「膵臓がんの早期発見手法など開発につながる研究」と水上部門長 img0102

「成果を社会に還元していくことが目標」と小野部門長

札幌東病院医学研究所の水上裕輔・がん生物研究部部門長(旭川医科大学内科学講座がんゲノム医学部門・消化器内科教授)は「研究で着目したSTK11は、がん抑制遺伝子として知られ、正常に働かなくなることにより、膵臓がんを含むがんの発生・進行を促進するドライバー遺伝子として機能します。しかし、STK11の異常がIPMNの発生や進行、がん化に及ぼす役割はこれまで知られていませんでした」と説明する。

そこで研究グループではIPMN184例を対象とする研究を実施。切除標本の病理学的解析、大量の遺伝子配列を高速に解析できる次世代シーケンサーによる遺伝子解析を行うことで、STK11異常を有するIPMNの遺伝学的、臨床病理学的特徴を明らかにすることに成功した。184例のうち26例のIPMNにSTK11異常を認め、その多くにがん遺伝子の一種であるKRAS変異が認められた。

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STK11異常を有するIPMNの典型的な病理像。シダの葉状の乳頭構造や球状硝子体など特徴的な形状を呈する(画像提供:古川教授、大森助教)

解明した特徴は次の5つだ(図)。①KRASの機能活性化変異と相助け特徴的な形状(シダの葉状の構造)のIPMNを形成、②IPMNの悪性化に関与し治療経過を悪化させるリスク因子となる。STK11異常のある症例はSTK11正常の症例と比べ生存率が低い、③既知の膵臓がんドライバー遺伝子であるTP53やSMAD4よりも先に異常が発現、④リン酸化AMPKα(細胞エネルギーの恒常性維持に関する主要な制御因子)発現の低下により、細胞内代謝を変化させる。これは、がん細胞にとって有利な状況を意味する、⑤転写制御因子であるSnailタンパク質の発現上昇により、細胞接着性を低下させ、浸潤や転移に関与する。

「膵嚢胞性腫瘍の正確な病態の把握は、膵臓がんの早期発見に欠かせません。今回の研究成果はSTK11を標的とした膵臓がんの早期発見や新規治療戦略の開発につながると期待されます」(水上部門長)

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この研究で大規模な遺伝子解析の中心的役割を担った札幌東病院医学研究所の小野裕介ゲノム診断研究部部門長は「将来的に患者さんの役に立つ研究に取り組み、成果を社会に還元していくことが目標です。現在、多施設共同研究として膵液や十二指腸液から遺伝子変異を調べ、膵臓がんのリスク評価や早期発見を行うリキッドバイオプシー(液体生検)の技術確立を目指す臨床研究などを進めています。実用化に向け尽力していきたい」と意気込みを語っている。

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