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徳洲新聞2020年(令和2年)11/30月曜日 NO.1264より
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札幌東病院医学研究所 膵がん遺伝子変異研究が進捗 文科省科研費に3課題採択
科研費は自然科学や社会科学など、あらゆる分野の学術研究(基礎から応用まで)を切磋琢磨(せっさたくま)しながら発展させることを目的とする競争的研究資金。審査を経たうえで独創的・先駆的な研究に対し助成する。研究の目的や内容によってカテゴリー(種目)を設けており、今回、採択されたのは基盤研究のBとC(個人または複数の研究者が共同して行う独創的・先駆的な研究)。いずれも膵臓がんの遺伝子解析がテーマだ。
研究所メンバー(後列左が水上部門長、後列右が小野部門長)
Bは水上裕輔・がん生物研究部部門長(旭川医科大学医学部内科学講座がんゲノム医学部門教授)が研究代表者の「発癌素地の多様性と分子遺伝学アプローチに基づく膵癌の早期診断」。これまで同研究所が調べてきた遺伝子変異に加え、組織学的異常の臓器内分布やRNA・タンパク質の発現情報などを統合的に解析し、発がんする過程で、どのような細胞にどのような分子異常が蓄積していくのかを明らかにすることで、発がんリスクの予測システムを構築するのが狙いだ。
また、切除された膵がん組織から樹立した初代細胞を用いてゲノム(全遺伝情報)編集を行い、特定の遺伝子変異がどのような役割を担っているかを明らかにする。
「予後を改善したい」
Cの1題は唐崎秀則・がん生物研究部客員研究員が研究代表者の「形態別にみた多発膵管内病変の膵内分布とclonality」。これは同研究所のメンバーを含む研究グループが18年に発見した「膵臓の腫瘍性嚢胞(のうほう)が、がんに変化する新たな経路」を、さらに詳細に解明する目的。
腫瘍性嚢胞のうち、頻度が高い膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN=膵管の内部に増殖し粘液を産生する腫瘍)のがん化パターンは従来、ふたつに分類されていたが、同グループが新たなパターンの存在を発見、その成果は米国消化器病学会誌『Gast-roenterology』に掲載された。
今回の研究では、その起源に着目。どのような遺伝子プロファイル(特定の遺伝子の発現と遺伝子変異に関する情報)をもつ〝芽〟が浸潤がんに至るのか、またそれがIPMN病変のどの領域に分布しているのかを明らかにするのが目的だ。現在、非浸潤性のIPMN患者さん20人を対象に、切除した膵臓から異常のあるDNAを採取し遺伝子プロファイルの解析を推進中。浸潤がんへの進展リスクが明らかになることで、治療の適切なタイミングが明確化しそうだ。
もう1題は、小野裕介・ゲノム診断研究部部門長(主任研究員)が研究代表者の「ドライバー変異が惹起(じゃっき)する発癌経路に基づいた血中新規バイオマーカーの探索」。これは今まで取り組んできた「がんの遺伝子変異を高感度に体液から検出する試み」をさらに発展させる内容。がん化を進めるドライバー遺伝子の変異をDNAやRNAから一段と効果的に検出する方法を構築するとともに、新たなバイオマーカーを探索し、難治がんの早期診断・早期発見を目指す。
「現在、前者については、ごくわずかなDNAからドライバー変異プロファイルを一度に決定するシステムの構築が進んでいます。後者についてはデータを集積しているところです」と小野部門長。
科研費への採択について小野部門長は「民間の病院研究所として素直にうれしく思います。地道な取り組みですが、成果につなげたい」と意欲を見せる。水上部門長も「最終的には診断の確実化、早期化などで患者さんの予後を改善していきたいです」と意欲的だ。
電子顕微鏡で病変などを確認する技術員
膵臓がんは難治がんと言われ、5年生存率は約10%。同じ固形がんの胃がん・大腸がん(同約70%)、女性の乳がん(同90%超)などに比べ予後が悪い。ただし、腫瘍の大きさが1㎝以下の病変では同約80%まで改善する。「現状、1㎝以下で見つかる割合は、全膵臓がんの1%程度ですが、早期発見・診断ができれば難治がんと言えなくなります」と水上部門長。「容易な道のりではありませんが、それだけ伸びしろがある領域」とし、「研究を進めることで他のがんにも応用が利くなど、ブレークスルーにつながると信じています」と俯瞰(ふかん)している。
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