早期警告システム 心肺停止の予防に有効
中部徳洲会病院と湘南藤沢徳洲会病院
導入事例など紹介
徳洲会グループは全国の医療機関に先駆けて早期警告スコア(EWS=Early Warning Score(アーリーウォーニングスコア))システムを導入、電子カルテへの組み込みを進めてきた。
患者さんの急変による院内CPA(心肺停止)の発生や死亡のリスクを減らすのが狙い。導入から2年を経た中部徳洲会病院(沖縄県)の伊波潔院長は同システムの導入経緯や効果をテーマに講演。
また、英国標準の最新システムであるNEWS(ニューズ)(National(ナショナル) Early Warning Score)を2014年12月に導入した湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)の亀井徹正総長は、NEWSの開発経緯や特徴などを紹介した。
「MEWS」と「NEWS」
EWSは患者さんの状態の急変を早期発見し、重症化やCPAを未然に防ぐためのツールの総称。
バイタルサインなどを数値化し、一定以上の点数に達した場合に警告音や警告メッセージで、いち早く急変を知らせる仕組みだ。
予想外のCPAやICUでの院内死亡の減少に有効であることから、欧米で導入が広がっている。
徳洲会は豪州や英国などのシステムを参考に、2011年に導入に向けた準備を開始。
01年に開発された既存のMEWSをもとに、徳洲会版MEWSシステムを作成し、中部病院や南部徳洲会病院に導入した。
MEWSの測定項目には呼吸数、心拍数、収縮期血圧、意識状態、体温といったバイタルサインのほか、任意の設定項目として“第六感”という項目がある。
各項目の合計点に応じて
グリーンゾーン(要注意)
イエローゾーン(急変の可能性あり)
ウォーニングゾーン(急変する可能性が大きい。ドクターコール)
の3段階にリスク分類。
↑「MEWSは医師や看護師からの評価も高く、非常に有用」と伊波院長
「当院では予想外のCPA症例の多くは、夜間および明け方に発生していました。同症例の院内発生を減らし、院内死亡率を減少させるためMEWSを導入しました」と中部病院の伊波院長。
中部病院は任意項目の第六感を採用。
伊波院長は
「患者さんや家族、看護師が『何かおかしい』と思う直感的な感覚は重要な因子です。豪州ではMETを呼び出す判断基準にも使われています」
と説明した。
ウォーニングゾーン警告となった場合、病棟看護師が病棟看護師リーダーに報告。
さらにICU担当看護師と医師に報告を上げ、医師の指示で患者さんをICUやHCUに搬送、厳重な観察と必要な処置を行う。
導入効果について伊波院長は、
「CPAの院内発生率が有意に減少し、統計学的にも有意差を確認しています。医師や看護師からの評価も高く、非常に有用です」
とアピールした。
バイタルを入力するなど実際の運用を担う同院看護部からは、
「患者さんの状態を点数化することで新人看護師による急変の見逃しを減少できる」
「スコアが高く重症と評価された患者さんは医師や看護師がとくに注意するため、異常が早期発見しやすい環境となった」
「リーダー看護師やICU看護師がかかわることで、新人看護師の負担や不安の軽減にもつながる」
など評価が高い。
英国標準のシステム採用
「日本では、まだあまり注目されていませんが、将来的にスタンダードになる可能性があります」
湘南藤沢病院の亀井総長がこう話すのは、EWSのひとつであるNEWS。
NEWSは、さまざまな段階を経て、12年に完成した英国標準の最新EWSだ。
亀井総長によると、英国では1990年代、NHS崩壊の危機を迎え医療サービスの質の低下などが起こり、一般病棟の重症患者さんに対する適切なモニターや治療が十分に行われないケースが増え、急変が多発。
こうした事態を改善するため90年代後半以降、EWSの開発が進展。
院内CPAは多くのケースでバイタルサインの変化という前兆があり、CPAの予防が可能と考えられたからだ。
結果、2000年頃には各々異なる基準をもった多数のEWSが英国内で作成、使用される状況が生まれた。
NEWSは呼吸数、SpO2、酸素投与、体温、収縮期血圧、心拍数、意識レベルの7項目で構成。
合計点により、
低リスクのグリーン
中等度リスクのイエロー
高リスクのレッド
に色分けし3段階で判定している。
判定に応じて、モニタリングの間隔や臨床対応の内容を決めている。
亀井総長は
「当院ではCPA後の対応体制は整っていたのですが、予防システムがありませんでした。調査したところ、ほかのEWSよりも急変の検出率に優れた英国の標準スコアがあることを知り、NEWSを導入しました」
続けて
「NEWSは外科系、内科系の疾患を問わず、24時間の生命予後リスクを判定することができます。バイタルで評価することから、誰が付けても同じ点数になるため、判定者の臨床経験に影響されずに運用することが可能です」
と説明した。
湘南藤沢病院は14年10月にNEWSを電子カルテに組み込み、試験運用を経て12月に入院患者さんへの適用を開始。
開始から日が浅いため導入前後の比較はまだ難しいが、同システムの活用などを通じ
「よりレベルの高い標準診療に取り組み、院内CPAゼロを目指します」
と、亀井総長は意欲的だ。
同院は今後、RRTを結成するなど、より洗練された心肺蘇生システムの構築に取り組んでいく方針。
もっと詳しい内容や記事の続きは【徳州新聞ニュースダイジェスト】からご覧ください。