フィジカルアセスメント
薬剤師が積極的に実施
中部徳洲会病院
中部徳洲会病院(沖縄県)は、薬剤師によるフィジカルアセスメント(身体評価)を積極的に取り入れている。医師や看護師と異なる視点を追加することで、副作用の早期発見や薬効の的確な把握につなげるのが狙い。厚生労働省が2010年、薬剤師の薬物療法への積極参画を認める通知を発布して以来、注目を集めている活動だが、新しい概念だけに、いまだ本格導入している病院は少ない。教育体制も未整備なため、同院は近隣病院とともに研究会を立ち上げている。
近隣病院と研究会立ち上げ
「医師が薬剤師に教わることも多々あります」と伊波院長
薬剤師によるフィジカルアセスメントの主な目的は
①副作用の早期発見
②薬物療法の効果の確認
で、導入病院では一定の効果を上げているものの、本格導入している施設はまだ少ない。
中部徳洲会病院は12年、救急総合診療部の患者さんを対象に薬剤師が回診参加し、フィジカルアセスメントを試験導入。
院内の全プレアボイドに占める同科の割合が大きく増加したことから13年、ICUと内科(救急総合診療部含む)、泌尿器科の患者さんを対象に本格導入した。
毎朝実施している多職種参加型の回診に薬剤師も参加し、情報交換しつつ、患者さんの身体状態を評価。
さらにベッドサイドでの服薬指導時も問診、視診、触診を中心に、必要があれば聴診なども行い、そこから得た気付きを随時、多職種にフィードバックしている。
同院の伊波潔院長は
「薬剤師ならではの視点に、医師も教わることが多々あります」
と、活動を高く評価。
実際、薬剤師によって副作用を早期発見し得た例は少なくない。
たとえば、入院中に情緒不安定になった高齢患者さんについて、当初は年齢や環境変化によるストレスが原因と考えられていたものが、薬剤師のアセスメントで薬の副作用と判明、早期に処方変更できた例がある。
担当薬剤師が患者さんの様子に違和感を覚え、処方薬に精神症状の副作用がある胃薬があったことから、腎機能検査の結果を確認したところ、胃薬で腎機能が低下した時期と情緒不安定になった時期が重なっており、副作用と判明した。
これは、副作用を常に念頭に置いている薬剤師ならではの視点が奏功した例で、喜多洋嗣・薬剤部長は
「疾患の症状や環境変化によるストレスと捉えていたものが、じつは副作用だったということは、しばしばあります」と明かす。
また、フィジカルアセスメントは、薬効確認など治療補助の役割も大きい。
薬物療法の結果を示す検査データと実際の患者さんの状態が異なるケースがあるからだ。
↑多角的な視点の大切さを訴える喜多部長
「代表的なのは感染症です。CRPや体温など感染の指標となるデータが悪くても、実際には元気だったり、逆に数値上は問題なくても、肌のツヤが悪く話し方も元気がなくて、治ったとは言い難い状態だったりすることがあります」と喜多部長。
このため同薬剤部は、感染症の患者さんに対しては必ずベッドサイドまで行き、フィジカルアセスメントしてから、抗生物質の投与期間の変更などを医師に提案するようにしている。
とくに重視しているのは、五感を使ったアセスメントだ。
フィジカルアセスメントというと、聴診器やパルスオキシメーターなどを用い、バイタルサインをチェックすることをメインにしがちだが、同院は、まず患者さんの主訴や顔色、話しぶり、皮膚の感触などを評価し、「何かおかしい」と感じて初めて、機器を用いる。
「医師や看護師と同じツールを使うことは、必ずしも必要ありません。各職種がそれぞれの切り口で患者さんを評価することで、より質の高い医療が提供できると思います」
教育コースつくる構想も
こうしたアセスメントは長年積み重ねた経験が必要。
今、現場で大きな課題となっているのは教育者不足だ。
フィジカルアセスメントは6年制になった薬学部の授業に組み込まれ、12年には教育を受けた新人が臨床現場に入職してきたが、上級薬剤師の大半がその訓練を受けておらず、多くの病院で教育者がいない。
「長年の経験でカバーできる部分もありますが、きちんと勉強しなくては高度なアセスメントはできません」
と、喜多部長は教育体制構築の必要性を強調する。
そこで同院は1年前、近隣病院・施設に声をかけ、薬剤師によるフィジカルアセスメントの研究会を発足。
中部徳洲会病院が世話役代表として、沖縄県立中部病院、中頭病院とともに発起人を務め、2カ月に1回、勉強会を開催している。
具体的には
「糖尿病」
「呼吸器」「循環器」
など疾患や身体機能別にテーマを決め、それぞれ研修医指導経験のある医師を招聘し、フィジカルアセスメントの手技やコツ、注意点を学ぶ。
「今まで気にしてなかったことが重要なサインだと気付きました」と、参加者からは好評だ。
将来的には同研究会の勉強内容を整理し、県病院薬剤師会も巻き込んでフィジカルアセスメントの教育コースをつくる構想もある。
「フィジカルアセスメントにはまだ、これができたら一人前、というような広くコンセンサスの取れた到達目標が存在しません。私たちが試行錯誤しながら模索している知識・技術を標準的なフィジカルアセスメントとして、まとめることができればと思います」
と、喜多部長は意欲を見せている。
同研究会の活動とは別に、中部徳洲会病院でも独自に医師、看護師らが聴診器や血圧測定器の使い方講習会を開催したり、回診時に医師がアセスメントすべき箇所を指導したりと、病院を挙げて薬剤師のスキルアップに協力。
これは伊波院長の方針で、フィジカルアセスメント導入時は聴診器を必要数、病院として購入したり、院内への周知徹底を図ったりするなど環境を整えた。
もともと伊波院長は「職種間で遠慮があれば、徳洲会グループの目指す医療はできない」との考えの下、医師、看護師は1年次に多職種の職場を体験することを義務付けるなど、職種の壁をつくらないように尽力。
「院内に自由闊達な雰囲気があったからこそ、薬剤師によるフィジカルアセスメントがスムーズに受け入れてもらえたのだと思います。まだ課題も多いですが、ルーチンワークとして根付かせることができるよう頑張りたい」
と、喜多部長は抱負を語っている。
↑多職種合同で行う朝の回診時、医師からアセスメントするべき箇所などを教わることもある
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