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徳洲新聞2021年(令和3年)1/25月曜日 NO.1271より
詳細は「徳洲新聞ニュースダイジェスト」をご覧ください。
南部病院 幹細胞を用い再生医療 臨床研究として1例目
南部徳洲会病院(沖縄県)は尿失禁の患者さんに対し、皮下脂肪由来の幹細胞を用いた再生医療の臨床研究として1例目を実施した。これは沖縄県の先端医療産業開発拠点実用化事業の一環で、地元のバイオベンチャー「フルステム」と、再生医療専門外来をもつ大阪府の「そばじまクリニック」との共同研究。将来的にはフルステムが開発した自動幹細胞培養装置を用いた臨床研究につなげる考えだ
向山部長「今後、治療の可能性に広がり」
「再生医療は低侵襲な治療法」と向山部長
再生医療とは、病気やけがで損なわれた臓器や組織の働きを取り戻すため、細胞を体外で培養したり加工したりし、移植する医療。幹細胞は同じ細胞を複製する「自己複製能」に加え、さまざまな種類の細胞に分化する「多分化能」をもつ。
幹細胞は①受精卵からつくるES細胞(胚性幹細胞)、②皮膚細胞などに特定の遺伝子を導入し樹立するiPS細胞(人工多能性幹細胞)、③各組織にあり、特定の細胞に分化する能力をもつ体性幹細胞――の主に3つに分類。ES細胞とiPS細胞は、あらゆる種類の細胞に分化する能力をもつが、人工的につくるため倫理的な問題や安全性に課題がある。
一方、体性幹細胞は体内で実際に働いている細胞であり、赤血球や白血球、血小板など血液の細胞をつくる「造血幹細胞」、神経細胞をつくる「神経幹細胞」、骨や脂肪、神経など組織をつくる「間葉系幹細胞」などがある。なかでも脂肪組織中から発見した間葉系幹細胞である「脂肪幹細胞」は、脂肪組織だけでなく骨や軟骨、心筋細胞、血管をつくる細胞などに分化する能力をもち、さまざまな組織の再生医療に応用できると言われている。
今回、同院で実施したのは、尿失禁の患者さんに対し脂肪幹細胞を用いた再生医療の臨床研究。患者さんは前立腺がんで前立腺を全摘出、術後合併症で生じた尿失禁に対し服薬治療が奏功しなかったため、再生医療を選択した。
採取した皮下脂肪から幹細胞を生成
内視鏡を用いながら注射器で幹細胞を移植
臨床研究を作成後、徳洲会グループ共同倫理審査委員会の事務局を担う未来医療研究センターからの指摘事項を修正、湘南鎌倉総合病院(神奈川県)認定再生医療等委員会での審査などを経て、必要書類をそろえた。
また、同研究の中心となった向山秀樹・泌尿器科部長が、日本再生医療学会による再生医療認定医の資格を取得。生成した細胞を測定するセルカウンターや、採取した脂肪幹細胞を保管するフリーザーなど必要な医療機器・器具も準備した。
1例目は昨年12月12日に実施。注射器を使い患者さんから幹細胞を含む皮下脂肪を採取、そこから幹細胞を生成。内視鏡を用いながら尿道括約筋付近に注射器で幹細胞を移植した。
向山部長は「民間病院の当院で、再生医療の1例目を実施できたことをうれしく思います。麻酔科医師、手術室スタッフ、CRC(治験コーディネーター)、臨床検査技師、臨床工学技士ら多くのスタッフが一丸となったからこそ実現できました」と笑顔を見せる。手術から2週間後、患者さんは一過性の発熱があったものの大きな有害事象はなく経過。今後、治療効果を長期的に観察する。
多職種が一丸となって1例目を実施
臨床研究は5例を目標に進める。今回の症例では幹細胞の培養は必要なく、採取した分だけで十分だったが、今後の課題として、より多くの幹細胞が必要になった場合の対応がある。そこで活用したいのが、フルステムが開発した自動幹細胞培養装置。これは培養皿の代わりに医療用の不織布を使用し培養するのが特徴で、小規模な施設でもひとりで作業ができ、従来の1~2割のコストで治療が可能になる。
向山部長は「まずは当院で問題なく再生医療を実施できるようになるのが目標。次のステップとして、幹細胞の培養に進んでいきます」と展望すると同時に、「再生医療は低侵襲で患者さんにとって有用な治療法。1例目を実施できたことで、今後の治療の可能性が広がりました」と意気込みを話す。